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二つ以上事業所勤務の場合の社会保険・労働保険について社会保険労務士が解説!

更新日:2022年8月19日

はじめに


働き方改革の一環として政府が副業・兼業を推進する方針を打ち出しています。近年、テレワークやフレックスタイム制度などの柔軟な働き方が普及するとともに、労働者の副業・兼業が加速しています。


ただ、実際に2つ以上の事業場で勤務しようとすると、労務上の各種取扱いに関しては多く疑問が生まれることと考えます。収入を増やそうと思って始めた副業だが社会保険料は2倍徴収されてしまうのか?副業先に向かう途中で通勤災害にあった時は保険適用されないのか?など、二以上事業所勤務の場合の社会保険・労働保険について、社会保険労務士が解説します!


 

2つ以上の事業所で勤務する場合の社会保険(健康保険・厚生年金保険)について


社会保険の適用要件は、それぞれの事業所で下記の適用要件を満たすかどうかを判断します。それぞれの事業所では適用要件を満たさないが、合算すると要件を満たす場合であっても加入することはできません。


【社会保険の適用要件】

・適用事業所に常時使用され、70歳未満であること。

・1週間(1か月)の所定労働時間が、通常の労働者の4分の3以上であること。

・1週間(1カ月)の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満であっても、次の5要件をすべて満たす方は、被保険者になります。

①1週の所定労働時間が20時間以上あること

②雇用期間が1年以上見込まれること(※)

➂賃金の月額が8.8万円以上であること

④学生でないこと

⑤特定適用事業所または任意特定適用事業所に勤めていること


(※)令和4年10月より、2.雇用期間が1年以上見込まれることは、要件から除かれます。


それぞれの事業所で要件を満たす場合は、まず両方の事業所で資格取得の手続きを行った上で、被保険者が被保険者所属選択・二以上事業所勤務届を提出します。健康保険証は2枚発行されるわけではなく、この届出によって被保険者が選択した事業所から発行されます。


保険料については、それぞれの事業所で支払われる報酬額を合算して標準報酬月額と社会保険料額が決定され、報酬額の按分比率に応じて社会保険料も按分され、各事業所に通知されます。


傷病手当金などの保険給付は、この決定された標準報酬月額に基づいて給付されます。

もちろん将来もらえる年金額の基礎にもそれぞれの事業所の報酬は算入されます。



2つ以上の事業所で勤務する場合の雇用保険について


雇用保険の適用要件は、それぞれの事業所で下記の適用要件を満たすかどうかを判断します。もしそれぞれの事業所で要件を満たす場合は、主たる賃金を受ける事業所でのみ被保険者となります。雇用保険料の支払いは加入している事業所でのみ発生しますが、給付についても、加入している事業所から支払われる賃金額をもとに算定されます。


ただし65歳以上で複数の事業所に雇用される労働者が、それぞれの事業所での労働時間が雇用保険の加入要件を満たさなくても合算すると要件を満たす場合に、労働者本人が申し出れば雇用保険に加入できるマルチジョブホルダー制度が令和4年1月1日より開始されました。この場合は労働者が申し出た日から、それぞれの事業所で雇用保険料の納付義務が発生します。

マルチジョブホルダー制度によって被保険者になった労働者は、失業給付だけでなく育児休業給付・介護休業給付・教育訓練給付等も対象となります。



2つ以上の事業所で勤務する場合の労災保険について


労災保険については、副業・兼業か本業かにかかわらず、事業主は労働者を1人でも雇っていれば加入しなければならないため、それぞれの事業所で加入します。


労災保険料については、本人負担分はなく事業主負担分のみ発生します。


給付額については、従来は災害が発生した事業所の賃金分でのみ算定されていましたが、令和2年の法改正により、それぞれの事業所での賃金を合算して算定することになりました。また労災認定にあたっても、それぞれの就業先での業務上の負荷を総合的に評価することとなっています。

なお、通勤災害について、本業の事業所での勤務を終えて、副業の事業所に向かう際に事故にあった場合も、通勤災害とみなされます。



法人役員の場合

代表取締役などの法人役員には、労働時間や賃金の取扱がありませんが、社会保険については前提として、役員報酬が支払われていれば、事業場に使用されるものとして原則的に社会保険適用となります(対象者が実質的に会社経営に参画しているか、経常的に報酬が発生しているか等も判断基準とはなります)。複数の会社から役員報酬が支払われていれば、同様に被保険者所属選択・二以上事業所勤務届を提出することとなります。

雇用保険・労災保険については、会社の役員は原則として対象となりません。


 

終わりに


副業・兼業が一般的となりつつある中、厳しい社会保険財政を背景に、賃金や報酬からはとりこぼしなく社会保険料を徴収する仕組みとなっています。社保料が高くなってしまう一方で、労働者が何らかの事情で働けなくなった際の補償となる給付についても、従来得ていた本業・副業を合計した給与水準をもとに補償する流れになってきています。


本業も副業も雇用関係に基づく場合は、こうした社会保険・労働保険の適用以外に労働時間の通算による、時間外労働の発生という問題がでてきます。会社は労務管理が複雑になるだけでなく、労働者の心身の疲労に対する安全配慮義務も一層必要とされます。

新しい働き方の一つである副業・兼業の広まりは喜ばしいことである一方、このような労務問題が顕在化してくることも想定されるため、労使双方において、正しい労務ルールの確認を常に実施頂きたいと考えます!




【執筆者プロフィール】



















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