デジタル賃金解禁の見込み!給与のデジタル払いについて社会保険労務士が解説!

更新日:11月23日

はじめに

厚生労働省は、スマートフォンの決済アプリ等を使い賃金を「デジタルマネー」で支払うことを解禁する方針を明らかにしました。早ければ2023年中に解禁される可能性があります。


長らく議論されてきた賃金の「デジタルマネー」支払いについて、どんな懸念があるのか、実現するためには各社でどのような制度設計が必要になるのか等を解説していきます!



賃金支払いの大前提である「通貨払いの原則」とは?

そもそも労働者にとって非常に大切な賃金については、労働基準法第24条でその支払い方法についてのルール、いわゆる「賃金支払いの5原則」が定められています。

1.通貨払いの原則(現物給与の禁止)

2.直接払いの原則

3.全額払いの原則

4.毎月1回以上の原則

5.一定期日払いの原則

この5原則のうち、通貨払いの原則で指す「通貨」とは、日本の貨幣である日本銀行券をいい、自社の商品や商品券などを賃金として支払うことは原則認められていません。また、労基法では労働者本人に直接現金で支払うことが原則とされていますが、労働者の同意を得た場合は銀行口座へ振り込むことが例外的に許されています。


政府はキャッシュレス社会の促進を目指し、これまでデジタルマネーによる賃金支払いの解禁について検討してきましたが、今般ついに、労働者側の懸念点に適切に対応する措置を講ずることを前提に労働組合側の一定程度の理解が得られたとして、早ければ2023年中に解禁する方針を発表しました。


デジタル賃金支払いを解禁するための制度設計案

デジタルマネーによる賃金支払いが解禁されると、企業は賃金を銀行口座ではなくデジタルマネーで「資金移動業者」に入金します。労働者は資金移動業者を介して支払われた賃金を、店舗やECでの支払い、納税などの場面でスムーズにキャッシュレス利用することが可能になります。

この資金移動業者が従来の銀行等と同等な安全性を確保できるかどうかが、解禁の前提として検討されてきました。


その結果、今までどおり銀行口座への振り込み、一定の要件を満たす証券総合口座への振り込みは引き続き利用できること、資金移動業者の口座への賃金支払いを強制されず、労使協定を締結し労働者の同意を得た場合に限ること、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座への資金移動であることが制度設計に盛り込まれる見込みです。


資金移動業者の指定の要件

労働者保護の観点から、資金移動業者の指定要件が非常に重要です。また、指定後に要件を満たさなくなった場合は指定の取り消しが可能であることも必要です。現在の検討の方向性としては以下の点がポイントとされています。


①資金保全

銀行口座と同等又は同程度の労働者保護が図られるため、資金移動業者が破綻した場合に労働者の口座残高が保証される仕組みを有していること。特に賃金支払い口座の残高上限を100万円以下に設定することで、資金移動業者破綻時に労働者の口座残高全額を速やかに労働者に保証すること、口座残高が100万円を超えた場合に給与が振り込めないということがないよう、超過分は当日中に労働者が予め指定する銀行口座又は証券総合口座に送金されることとされています。


②不正引き出しの補償

アカウントの乗っ取りや、その他不正利用によって、労働者の過失なく労働者に損失が生じた際に、インターネットバンキングと同程度の損失補償の仕組みを有していること。


➂換金性

ATM等を利用し1円単位で引き出しができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。


④報告体制

賃金支払いに関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。


⑤技術的能力と社会的信用

①~④のほか、賃金支払いに関する業務を適切かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ十分な社会的信用を有すること。


⑥その他

最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年間はアカウントが有効であること。


デジタルマネーでの給与支払いを導入する場合の企業実務

実際に企業としてデジタルマネーでの給与支払いを導入するにあたっては下記のような手続きが必要となる見込みです。


STEP1: 労使協定の締結

①対象労働者の範囲、 ②対象となる賃金の範囲及びその金額、③取扱資金移動業者の範囲、④実施開始時期等を盛り込んだ労使協定を締結


STEP2:同意書の締結

企業は、労働者に対し、銀行口座又は証券総合口座への賃金支払も併せて選択肢として提示する(提示する選択肢として、現金か資金移動業者の 口座かの2択は認められない)とともに、資金移動業者の口座への賃金支払について破綻時の保証、不正引出の補償、換金性、アカウントの有効期限などを説明の上、労働者の同意を同意書で得る



終わりに

いかがでしたでしょうか。すでにデジタルマネーは私たちの生活の中で当たり前になりつつありますが、従業員の生計の源である「給与」の支払いをデジタルマネーで行うにあたっては、労働者保護の観点から、セキュリティや補償制度、監督の強化や個人情報の取扱などまだまだクリアしていくべき検討課題が残っており、今後の議論について注視していく必要があります。





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