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令和6年4月からの企画業務型裁量労働制の実務対応について社労士が解説

はじめに

労働基準法施行規則および指針等の改正により令和6年4月より裁量労働制の大幅な改正が実施されます。これにより令和6年4月以降に裁量労働制を新たに導入する場合や継続する場合は新たな手続きが必要となります。令和4年の厚生労働省による就労条件総合調査では、裁量労働制の導入割合は専門業務型裁量労働制が2.2%、企画業務型裁量労働制が0.6%と導入割合としては高くないものの、裁量労働制はワークライフバランスを実現しやすく、生産性の向上が期待できる働き方としても注目されています。今回は、令和6年4月以降の企画業務型裁量労働制の実務対応について解説します!



企画業務型裁量労働制とは?

企画業務型裁量労働制とはみなし労働時間制度の一つで、①事業の運営に関する事項であること、②企画、立案、調査及び分析の業務であること、③業務の性質上、遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があると客観的に判断される業務であること、④業務遂行の手段や時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務について労使委員会で決議し、労働基準監督署に決議の届出を行った場合に労使委員会の決議であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。


企画業務型裁量労働制は、専門業務型裁量労働制と違い、システムエンジニアやデザイナー等の法令で定められた専門業務の縛りはありません。一方で、②企画、立案、調査及び分析の業務といっても企画部や調査部等の部署が所掌する業務であればすべて該当するわけではなく、個々の労働者が使用者に命じられた業務ごとに適用可否を判断します。また、企画業務型裁量労働制を適用させるためには上述した①~④の要件にすべて該当する必要がありますが、仮に該当したとしても、企画業務型裁量労働制の対象ではない業務を兼務している場合は適用対象外となります。いわゆる本社のホワイトカラーの業務であればすべて該当するというわけではないことに注意しましょう。


企画業務型裁量労働制の実施においては労使委員会の設置や運営規程の策定が必要となりますが、令和6年4月の改正により運営規程や労使委員会の決議に定めるべきものが追加されました。


企画業務型裁量労働制の導入手順とは

企画業務型裁量労働制を導入するためには

①労使委員会の設置

②労使委員会の決議

③決議書の労働基準監督署への届け出

④(新規導入の場合)雇用契約書のまき直し、就業規則への記載

⑤労働者本人の同意を得る

⑥制度の実施

⑦労働基準監督署への定期報告

⑧決議の有効期間の満了後、②へ戻る

という流れに沿って実施することになります。専門業務型裁量労働制に比べても手続きが厳格になっており、そのハードルゆえに導入企業が少ないという実態もあると考えます。

なお、労使委員会の決議事項は以下のとおりとなり、改正により下線部分が追加となっています。


(1)制度の対象とする業務

(2)対象労働者の範囲

(3)労働時間としてみなす時間

(4)対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置

(5)対象労働者からの苦情の処理のため実施する制度

(6)制度の適用に当たって労働者の同意を得ること

(7)制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取り扱いをしないこと

(8)制度の適用に関する同意の撤回の手続き

(9)対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に労使委員会に変更内容の説明を行うこと

(10)労使委員会の決議の有効期間

(11)労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を決議の有効期間中及びその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること


特に(2)は労使委員会において対象労働者となり得る者の範囲を決議するに当たって、客観的にみて対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有しない労働者を対象にした場合、労働時間のみなしの効果は生じないことに注意が必要です。

例えば、大学の学部を卒業したばかりの新卒社員で全く職務経験がないものは、客観的にみて対象労働者に該当し得ず、少なくとも3年~5年程度の職務経験を経た上で、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であるかどうかなどで判断する必要があるでしょう。


令和6年4月以降の改正ポイントとは

<ポイント1>本人同意の撤回の手続き及びその撤回に関する記録の保存

現行のルールでも本人同意を得ることや、同意に関する記録の保存については労使委員会の決議に定めることが義務付けられていますが、改正後は、「本人同意後の撤回の場合の手続き」及び、その「撤回に関する記録を保存」することについても労使委員会での決議が必要となります。


<ポイント2>労使委員会への賃金・評価制度の説明

対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について労使委員会に対する説明に関する事項(説明を事前に行うことや説明項目など)を労使委員会の運営規程にさだめることになります。また、対象労働者に適用者される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを労使委員会の決議に定めることになります。


<ポイント3>労使委員会による制度実施状況の把握、運用改善

制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)を労使委員会の運営規程に定めることになります。


<ポイント4>労使委員会の開催頻度

現行ルールでは労使委員会の開催頻度までは運営規程に定めることが求められていませんでしたが、改正後は労使委員会の開催頻度を6ヶ月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定めることが必要となります。


<ポイント5>労働基準監督署への定期報告の頻度

企画業務型裁量労働制については、労働時間の状況や健康・福祉を確保する措置の実施状況等について労働基準監督署へ定期報告を行う必要がありますが、その頻度について現行ルールでは労使委員会の決議が行われた日から起算して「6ヶ月以内ごとに1回のみ」と定められていますが、改正後は労使委員会の決議が行われた日から起算して「初回は6ヶ月以内に1回、その後は1年ごとに1回」へと変更されます。

労使委員会の決議は企画業務型裁量労働制を導入する前までに届け出を行う必要があります。また、従前より制度を継続している場合は、令和6年3月末までに決議の届け出を行う必要があります。


改正に伴い、労使委員会の決議届の様式も変更になっています。すでに導入済みの企業は早めに厚生労働省のホームページ等で確認をしておきましょう。


実運用で間違えやすいポイント

裁量労働制はみなし労働時間を8時間と定めたら所定労働日は何時間働いても8時間とみなす制度です。一方で平日休日問わず、深夜(22時~翌5時)は割増が必要となり、所定休日や法定休日はこの裁量労働制は適用されず、原則として1分単位で労働時間を把握し、割増賃金も適切に支払うことが必要です。

「裁量労働制=一切の割増賃金が不要」と誤って認識し運用をされているケースもあるようですので、実際の運用に当たっては正しい知識のもと、勤怠システムの設定等を含め適切にできているか十分に確認し運用いただくことが重要と考えます。


終わりに

いかがでしたでしょうか。企画業務型裁量労働制は専門業務型裁量労働制と違い、法令に定める専門業務という縛りもないため、導入時や導入後の手続き等もより厳格に定められているといえるでしょう。令和6年4月以降は健康福祉確保措置として、「勤務間インターバルの確保」、「深夜労働の回数制限」、「労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)」「一定の労働時間を超えた場合の医師の面接指導」などの実施が望ましいことも努力義務として追加されます。自社にあった健康福祉確保措置の充実を図りながら、制度活用も検討されてみてはいかがでしょうか。



【執筆者プロフィール】


寺島有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士


一橋大学商学部卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規定策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在籍中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行なっている。


2023年11月16日に、弊所社労士大川との共著書「意外に知らない?!最新働き方のルールブック」(アニモ出版)が発売されました。



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