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続々と始まる新型コロナウイルスワクチン接種!企業が取るべき対応を社労士が解説!

1,はじめに

新型コロナウイルス感染症が引き続き各地で猛威を振るい、終息の気配が見えません。各企業や自治体で、新型コロナウイルスのワクチン接種が盛んになっています。優先順位としては、医療従事者に続き、基礎疾患を有する方や高齢者が挙げられますが、順次、企業で働く現役世代についてもワクチン接種が始まるものと予想されています。

この新型コロナウイルスのワクチン接種に関して顧問先様からご質問いただくことも多くなってきました。職域接種を行う当日の労働時間や賃金の取扱い、また当日以降副反応が出た場合の休暇について、悩みを抱える企業が多いようです。ワクチン接種後高熱が出たりする副反応が少なくないということもあり、労働者に対して個別でなく一律の公平な取り扱いが重要となります。

今回はワクチン接種時・接種後の就労や休暇の取り扱いを解説していきます!

2,ワクチン接種に関する休暇や労働時間の取扱い

厚生労働省HPの「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」において、「職場における感染防止対策の観点からも、労働者の方が安心して新型コロナワクチンの接種を受けられるよう、ワクチンの接種や、接種後に労働者が体調を崩した場合などに活用できる休暇制度等を設けるなどの対応は望ましい」とされています。

具体的に考えられる取扱いとしては下記2点があげられています。

<休暇制度の新設>

① ワクチン接種や、接種後に副反応が発生した場合の療養などの場面に活用できる休暇制度を新設。また既存の病気休暇や失効年休積立制度(失効した年次有給休暇を積み立てて、病気で療養する場合等に使えるようにする制度)等をこれらの場面にも活用できるよう見直す。

<接種時間の中抜け、もしくは就労としての取り扱い>

② 特段のペナルティなく労働者の中抜け(ワクチン接種の時間につき、労務から離れることを認め、その分終業時刻の繰り下げを行うことなど)を認める。もしくは出勤みなし(ワクチン接種の時間につき、労務から離れることを認めた上で、その時間は通常どおり労働したものとして取り扱うこと)とする。

こういった措置は、強制でなく労働者が任意に利用できるものである限り、ワクチン接種を受けやすい、労働者に有利な環境の整備であるといえます。一般的にはこのような措置は合理的であると考えられ、同サイトでも「就業規則の変更を伴う場合であっても、変更後の就業規則を周知することで効力が発生するものと考えられる」とされています。

労働者が副反応に対して抱く印象もさまざまであり、ワクチン接種にどのくらいの意向を示すかも人それぞれです。そのため企業の対応に当たっては、ワクチン接種を希望する労働者にとって活用しやすいものになるよう、労働者の希望や意向もなるべくヒアリングしたうえで検討することが大切です。

3,就業規則の改定は必要?

厚労省サイトでは、「ワクチン接種における取扱いについては、就業規則を変更したうえで労働者に周知する。常時10人以上の労働者を使用する事業場の場合、就業規則の変更手続も必要」とされています。

原理原則に基づき手続きをするのであればこの通りになりますが、ワクチン接種時の中抜けや出勤みなしを認めること、接種後の副反応が出た際の特別休暇の付与はすべて前述の通り労働者にとって有利な取扱いです。そのため必ずしも就業規則の変更を行わずとも、社員向けに社内文書やガイドを作成し周知を行うことでこれら取扱いの実施は可能であると考えています。

ただ、「今後こういったワクチン接種に関してはすべて出勤とみなしてもらえる?」、「インフルエンザの予防接種で副反応が出た場合も特別休暇がもらえる?」などといった混乱がトラブルを招くことも予想されるため、本件は「新型コロナウイルス感染症に関するワクチン接種限定の取扱い」「本特別休暇は今年度限りの時限措置」などといった注意事項に関しても必ず、労働者向けの案内に明記しておくとよいと考えます。

4,職域接種の実施概要

各自治体で対応が進められる中、職域接種の実施を検討する企業も増えています。職域接種に関する概要に関しても厚生労働省より以下の通りまとめられていますので、ご参考ください。

【職域接種の概要】

1.使用するワクチン:モデルナ社製ワクチンです。

2.開始時期:令和3年6月21日からとされています。

3.接種会場・医療従事者の確保等:会場や従事者等は企業や大学等が自ら確保することとされています。

4.実施形態:企業単独での実施のほか、共同実施も可能です。近隣住民も接種可とする企業も少なくありません。

5.接種順位:職域接種対象者の中で、高齢者や基礎疾患を有する者を優先することとされています。

6.接種費用:職域接種も予防接種法に基づき、費用は国から支給されます。

7.接種券:自治体からの接種県が届く前でも接種可能です。(接種券が発送された後は本人から回収して予診票に添付します。)

5,労働者から「ワクチンを打ちたくない」と言われたら?

現在は新型コロナウイルス感染症の影響で渡航上の制限も多く、海外出張も平時と比べて減ってきている状況ではありますが、今後ワクチンの接種証明などが、海外渡航や入国の可否に影響する見込みです。会社としては、業務で海外出張や駐在を行う予定の労働者には積極的にワクチン接種をいただきたいと考えるところですが、労働者からもし「ワクチンを打ちたくない」と言われた場合はどうでしょうか。

結論、企業側が労働者にワクチン接種を強制することはできません。予防接種法第9条上、予防接種は「予防接種を受けるよう努めなければならない」という「努力義務」に過ぎないものとされており、実は「義務」ではありません。

そのため、企業側ができることとしては、ご本人に必要性をお伝えしたうえで接種を推奨する、ということになります。たとえその労働者が海外赴任を見越して採用した方だったとしても、接種を拒否されてしまった場合強制はできません。

渡航や入国にはワクチン接種が必要になる場合が多いと考えられますし、海外での健康リスクも高まるため、事実上「ワクチン接種を避けたい」という方については「海外赴任はさせない」という判断をせざるをえないことになります。

そのためその方が海外出張等予定されていた業務を果たせなかったとしても、ワクチン接種が強制的でない以上仕方のないことになり、これを理由に労働者の評価を下げるなど、不利益な取り扱いをすることは非常に会社にリスクが高く、実施すべきではありません。

今後出張を命じる方や海外赴任を命じる方がもし事前にわかるのであれば、新規採用や内定の時点で「渡航に必要かつ安全配慮上重要なため、ワクチン接種いただけるか」という事に対し、同意書を取得しておく運用が、企業側にトラブルが少なくお勧めであると考えます。

6,メンタルヘルス対策窓口の開設も

新型コロナウイルス感染症対策として、メンタルケアの重要性も指摘されています。オフィス出社が制限されてリモートワークが増えた、密を防ぐためにランチは個別で取るように指示が出た、様々な変化の受け止め方によっても個人差があります。

働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」では、新型コロナウイルス感染症に関連した情報や相談窓口などをご紹介しています。こういった情報を必要に応じて労働者の皆様にご案内いただけるとよいと考えます!

以下のような窓口が「こころの耳」サイトに掲載されています。

・新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター(厚生労働省)

各都道府県に設置されている帰国者・接触者相談センターです。感染の不安や体調についての相談はまずはこちらで可能です。

新型コロナウイルス感染症に関する特別労働相談窓口(厚生労働省)

都道府県労働局の中に窓口が設置されています。労働相談や雇用調整助成金の受給相談ができます。

新卒者内定取消等特別相談窓口(厚生労働省)

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による採用内定取消し、入職時期の繰下げにあわれた学生等のみなさまのための「新卒者内定取消等特別相談窓口」を設置されています。 ハローワーク内に設置されていますが、感染防止のため、来所なしでも相談の受付が可能です。

7,終わりに

7月半ばに4回目の緊急事態宣言の発出もなされ、感染者数の増加はなかなか収まりを見せません。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて仕事や生活に不安やストレスを感じている方も多く、日常が戻ってくるにはまだ時間がかかる見込みです。事業継続のためにも、労働者の皆様の心身の健康のためにも、企業としてできる対策を考え一つひとつ講じていきましょう!

【執筆者プロフィール】


寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部 卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。


その他:

2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。


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