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産業雇用安定助成金

出向により雇用を維持する事業主への助成金!産業雇用安定助成金の概要を社労士が解説!

はじめに

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、事業活動の一時的な縮小などを余儀なくされる企業が相次いでいます。このような中で、使用者が直ちに解雇等の人員整理を行うことは、労働者だけでなく使用者にとってもつらい対応といえます。やむなく人員整理を行った企業の、アフターコロナにおける要員確保などは今後の大きな課題のひとつになるといえるでしょう。

一方、労働者を退職させずに、「出向」を通じて雇用維持を図ることに注目が集まっています。

新型コロナウイルスの影響で労働者の雇用の維持が困難な企業から、反対にコロナ禍の中で需要が伸びた企業や、慢性的に人手不足な企業へ「在籍型出向」という形で人員を派遣することで、①雇用が維持される②対象者が今までにない知識や経験を得られる③事業活動のさらなる拡大が期待できる、、、といったように、労使双方が大きなメリットを享受できます。

このような在籍型出向を通じて労働者の雇用の維持を図る場合、条件を満たすことで、出向元の事業主、出向先の事業主の双方が「産業雇用安定助成金」という新たに創設された助成金の支給対象となることをご存じでしょうか。

本日はこの「産業雇用安定助成金」について解説します!

本助成金の支給対象となる「出向」とは?

いわゆる「出向」とは、労働者が出向元企業と何らかの関係を保ちながら、出向先企業と新たな雇用契約関係を結び、一定期間継続して勤務することをいいます。このうち、在籍型出向は、出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結ぶものをいいます。在籍型出向のうち、本助成金の対象となる出向は以下の要件となります。

・新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向であること

・出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことを前提としていること

・出向元と出向先が、親会社と子会社の間の出向でないことや代表取締役が同一人物である企業間の出向でないことなど、資本的、経済的・組織的関連性などからみて独立性が認められること

・出向先で別の人を離職させるなど、玉突き出向を行っていないこと

在籍型出向は、労働者と出向元・出向先の事業主の両方に雇用関係が生じます。そのため、労務管理の責任があいまいにならないように、事前に締結する出向契約でしっかり責任の範囲を決めておく必要があります。

(なお、よく混同されるポイントですが、出向契約に基づく在籍型出向と労働者派遣契約に基づく労働者派遣は別物となります。在籍型出向は、出向先企業と出向労働者との間に雇用契約関係があるため、労働者派遣には該当しません。労働者派遣は、労働者と派遣先の間に雇用関係はなく、 指揮命令関係が生じます。)

上記に該当する出向を行う「出向元事業主」「出向先事業主」の双方に対して、産業雇用安定助成金として出向に関する賃金や経費の一部が支給されます。また出向の対象者である「出向労働者」は、雇用保険の被保険者である必要があります。

本助成金としてどういった内容が支給される?受給額はどれくらい?

産業雇用安定助成金として受給できる内容は、「支給対象期に要する経費(出向運営経費) 」と「出向に際してあらかじめ要する経費(出向初期経費)」の2つに分けられます。

<出向運営経費>

出向元事業主及び出向先事業主が負担する賃金、教育訓練および労務管理に関する調整経費など、出向中に要する経費の一部が助成されます。中小企業と中小企業以外、また出向元が労働者の解雇などを行っているかいないかで助成率が変わります。

中小企業に対して、出向元が労働者の解雇などを行っていない場合の助成率は9/10、

出向元が労働者の解雇などを行っている場合の助成率は4/5となります。

中小企業以外に対して、出向元が労働者の解雇などを行っていない場合の助成率は3/4、

出向元が労働者の解雇などを行っている場合の助成率は2/3となります。

いずれの場合も、出向先・出向元合計の上限額は12,000円です。

<出向初期経費>

就業規則や出向契約書の整備費用、出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練、出向先事業主が出向者を受け入れるための機器や備品の整備などの出向の成立に要する措置を行った場合に助成します。

出向元事業主・出向先事業主に対する助成額は、同一の事業主において出向労働者1人につき1度限りで、100,000円となります。

なお、出向元事業主が雇用過剰業種の企業や生産量要件が一定程度悪化した企業である場合、出向先事業主が労働者を異業種から受け入れる場合について、助成額の加算を行います。

要件に合致する場合、出向元事業主・出向先事業主に対して50,000円が加算されます。

注意すべきポイントは?

<出向実施計画の提出>

本助成金の支給を受けるためには、出向元事業主が出向先事業主の作成した書類を含めて支給の対象となる出向の内容を事前に都道府県労働局またはハローワークに届け出ることが必要です。事前に計画届の提出のない出向については、本助成金の支給対象とはなりませんので十分に注意が必要です。計画届の提出は出向を開始する前日まで(可能であれば2週間前までを目途)に行うこととされています。

<出向労働者の同意取得>

本助成金の支給にあたっては、出向労働者本人が出向を行うことに同意していることが必要です。そのため、出向元事業所は、出向の目的や実施内容について対象となるすべての出向労働者に対し十分に説明を行わなければなりません。その上で、出向労働者本人が「出向に係る本人同意書」の必要事項を記載し、自署することが必要です。

出向労働者本人が、出向について同意していないにも関わらず、同意しているとして本助成金の支給を受けたり、また、在籍型出向とはなっていないにも関わらず、そのように見せかけて本助成金の支給を受けたりする場合にも、不正受給に該当します。

不正受給に関しては、企業名の公表等厳しい対応がなされていますので十分留意することが大切です。

<雇用調整助成金との調整>

一度の出向で、雇用調整助成金(出向)による出向元への助成措置にも該当する場合があり得ます。この場合には産業雇用安定助成金、雇用調整助成金いずれか一方の助成金のみが申請可能となり、両方を申請することはできないことに注意が必要です。実際に双方の条件に照らして助成額を算出し、それぞれの助成額を比較の上選択することが考えられます。

おわりに

産業雇用安定助成金については、コロナ禍で従業員の雇用の維持に苦慮する事業主、反対に需要の伸びに対して人材の獲得に苦慮する事業主、両方に対してメリットの大きい助成金だということは既に述べてきたとおりです。

一方で出向元・出向先事業主両方の皆様に対応いただきたいことは、出向労働者本人に対する丁寧なケアです。在籍型出向にあたっては、出向労働者本人が多くの不安を抱えているケースが少なくありません。例えば、出向先の雰囲気はどうか、今までと異なる業務をしっかりやっていけるか、出向が終わった後は元通り復帰できるか、といった内容です。そこで、出向の必要性や出向期間中の労働条件等について、出向先企業や労働者とよく 話し合い、出向契約の内容や出向期間中の労働条件等を明確にしておくことが重要です。状況が許すならば、実際に出向させる前に、出向先の見学や説明の機会を設けると、労働者の抱える不安を少なくできます。

産業雇用安定助成金を活用し、出向元事業主、出向先事業主、出向労働者にとって「三方よし」の在籍型出向を実現していただきたいと考えます!

【執筆者プロフィール】

寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部 卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

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