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今、企業に求められるメンタルヘルス対策とは?

1. はじめに

相次ぐ著名人の自死が、ニュースで大きく取り上げられています。

新型コロナウイルスの影響で以前より対面でのコミュニケーションの量が減っていることも懸念され、身体の健康と同じかそれ以上に、いまあらためて心の健康(メンタルヘルス)に注目が集まっています。

企業においても、近年の従業員の主たる休職理由は「精神疾患」が多いと考えられます。。メンタルヘルス不調は労働者本人だけなく、職場や企業全体にとっても重要な課題です。また、心身のバランスを一度崩してしまうと、立ち直るまでには多くの時間や支援が必要とされることから、メンタルヘルス対策は「予防」に焦点を当てて行うことが大切です。

10月は、厚生労働省が毎年実施する「全国労働衛生週間」の月でもあります。今回は、あらためて従業員の健康を確保するためにどのような取り組みがいま企業に求められているのか?をご紹介します!

2. 企業が行うべきメンタルヘルス対策とは?

企業が行うべきメンタルヘルス対策については、厚生労働大臣によって定められた「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に詳しく記載があります。

この指針では「事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」 やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要がある」とされています。

事業者が行うメンタルヘルスケアの実施段階は大きく3つに分けられます。

一次予防から三次予防までがありますが、一次予防は未然防止が目的です。二次予防は悪化を防ぐために、発症後の早期発見と適切な措置が目的とされています。三次予防は、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援する取り組みを言います。

この中でも、特に一次予防は発症を防ぐという意味でその取り組みが重要とされています。

一次予防の代表例にストレスチェック制度がありますが、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

・ストレスチェックとは?

「労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査」をいいます。労働安全衛生法に基づき、事業者は毎年このストレスチェック実施が義務付けられています(労働者数50人未満は努力義務)。

労働者にストレスへの気付きを促すとともに、ストレスの原因となる職場環境の改善につなげることで、不調の未然防止を図ることを目的に実施されます。

今日さまざまな種類のストレスチェックが公開されていますが、厚生労働省のサイトでも「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)」が無料で配布されています。健康診断と同様、定期に実施し経年で結果を追っていくことが望ましいです。また、所属部署ごとの傾向を見るなど、集団分析も非常に重要となります。

・4つのケアとは?

また、一次予防から三次予防のどの段階においてもポイントとなるのが「4つのケア」です。

①セルフケア

労働者自身がストレスを正しく理解し、自らのストレスに気づき、対処できるようにすることです。そのため、企業はセミナー等を開催し従業員に適切な教育を実施することが大切です。

②ラインによるケア

会社の安全配慮義務に基づいて、管理監督者が部下のメンタルヘルスの予防や早期発見を行うことです。日頃から部下の様子に気を配り、ハラスメントや過重労働が起きていないか等をチェックします。何かあったらすぐ専門家につなぐことも重要な役割です。

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア

産業医や保健師、衛生管理者、人事労務担当は、セルフケアおよびラインケアが適切に行われるよう、労働者及び管理監督者を支援します。心の健康づくり計画の策定から実施において、中心的な役割を担います。

④事業場外資源によるケア

メンタルヘルスケアには、専門的な知識を有する外部の支援を活用することが有効です。たとえば医療機関、EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)を専門とする民間企業、地域の保健機関などがありますが、活用の際には、くれぐれも「丸投げ」にならないような注意が必要です。

メンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、企業としてPDCAをしっかりとまわすことが大切です。計画策定のためには、まずは現在の会社の状況や課題をしっかりと認識することが大切です。

ストレスチェックで自社や従業員の抱える課題を認識し、衛生委員会等の審議を経たうえで「心の健康づくり計画」を策定します。企業としてメンタルヘルス対策に力を入れていくことを、経営のトップに意思表示してもらうと、進め方がよりスムーズになります。

計画に基づき教育研修や職場環境の改善を行い、今年度の反省はしっかりと次年度につなげていきましょう。

3. もし従業員が不調のサインを発症したら?

・従業員のメンタルヘルス不調への対応

メンタルヘルスケアにおいては予防策が重要となることは前述したとおりですが、万一、 メンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合には、その早期発見と適切な対応が肝要です。対象者本人、所属部署の上司や同僚、産業保健スタッフ、労働者の家族や主治医といった関係者と連携して対応しましょう。その際には個人情報の保護の観点に留意し、法令に準拠した個人情報および健康情報の取扱いを図ります。

療養にあたり従業員の休業が伴う場合には、円滑な職場復帰に向けて職場復帰支援プログラムを策定することが望ましいとされています。くれぐれもメンタルヘルス不調を従業員個人の問題とせず、企業として組織的かつ継続的な支援を行うという意識を持つことが大切です。

・企業がメンタルヘルスケアを怠った場合の危険性

事業者は従業員に対して「安全配慮義務」を負っています。労働者が心身健康に、安全に仕事ができるよう配慮することは事業者の義務とされています(労働契約法)。安全配慮義務の一環として、従業員が精神疾患を発症したり、悪化させたりしないように配慮しなければなりません。

労働者が長時間労働により精神疾患を発症し、結果として自殺してしまった「電通事件」は有名ですが、本件では企業に多額の損害賠償責任が認められました。こういったことが一度起こると、大きな金銭的ダメージに加え、企業イメージも悪化し、優秀な人材の確保が難しくなります。

事後対応に比べると、メンタルヘルスケアの予防に向けた日頃の対応にかかる労力やコストはごくわずかなものです。従業員の様子が何だかいつもと違う、と気づいたらすぐに何らかの手を打ちましょう。

4. おわりに

従業員は、企業にとってもっとも大切な財産です。企業のメンタルヘルス対策は、従業員一人ひとりの心身の健康、また生産性・効率性向上に大きく寄与します。企業規模や業種業態にかかわらず、ぜひ積極的にメンタルヘルス対策を取り入れていっていただきたいと考えています。

【執筆者プロフィール】

寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部 卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

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