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業務委託と正社員の労務管理の違いとは 注意すべきポイントを解説

更新日:2022年7月6日


1.はじめに

2022年に入っても新型コロナウイルスの感染拡大は収束する気配がありません。いまだ経済は先行き不透明な状態が続き、懸念が高まるばかりです。

この新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、アメリカではフリーランスやギグワーカーが急増しているそうです。一方でここ日本でもコロナ禍でフリーランスが増加しています。民間のクラウドソーシングを手掛けるランサーズが2021年に実施したフリーランス実態調査によれば、コロナ禍以前の2018年から比較して日本のフリーランス人口は500万人以上増加しているということです。(ランサーズ フリーランス実態調査2021より)

フリーランスの活用を進めている企業も増えている一方で、「フリーランスの労務管理はどうやって行えばいいの?」といった疑問を抱えている企業も多いのではないでしょうか。

今回はフリーランス・業務委託と正社員などの労務管理の違いを解説していきます!



2.そもそも業務委託とは

意外かもしれませんが「業務委託」とは、実は法律上の用語ではありません。 ただ、民法上には請負契約と準委任契約というものがあり、この2つの契約の総称として業務委託契約と呼ぶことが実務上多くなっています。

・請負契約とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約束し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約束する契約形態です。 一般にデザイナーなどが成果物をクライアントに納品するような業務がこちらの請負契約にあたります。 ・準委任契約とは、請負契約とは異なり、仕事の完成ではなく、一定の業務を行うことを約束する契約形態です。コンサルタントとのコンサルティング契約などはこちらの準委任契約にあたることが多いです。


業務委託契約は、正社員や契約社員・アルバイトといった雇用契約とは立て付けが異なります。業務委託契約と雇用契約の大きな違いを構成する要素として「仕事の進め方への命令権(指揮命令権)の有無」があります。

正社員や契約社員・アルバイトといった「雇用契約」の場合、会社には指揮命令権があり、仕事の遂行の手段を指定できたり、勤務場所や労働時間が指定できるなどの拘束性があります。また自社の就業ルールを守らせたりすることも可能です。

一方で、業務委託契約は一知の成果物の完成や業務の遂行を約束することで発注者から報酬をもらうという契約であり、指揮命令権や勤務時間・労働時間の拘束等は通常及びません。

この理解は知らず知らず「偽装請負」とならないよう、しっかりと行っておきたいところです。



3.偽装請負とは

偽装請負とは、偽装派遣、偽装委託といった言い方もあり、その文脈によって若干の違いはありますが、業務委託の文脈でいえば、「業務委託契約を締結したフリーランスが実質的に自社の労働者と変わらない働き方をしている場合の状態」を言います。

業務委託者は、労働者のように社会保険・雇用保険の加入や労災加入等の必要はなく、さらに労働基準法や最低賃金法なども適用されません。 また、現在の日本の雇用環境では通常雇い入れた労働者については、労働契約を解消すること、とりわけ解雇などはその要件は厳しくなっている一方、業務委託者については労働者のような契約解消の厳しい規制などはありません。

このようなメリットを享受するために、実態は労働者であるのに、業務委託者として取り扱う問題を偽装請負と呼びます。


4.偽装請負とならないような労務の実務上の運用とは

社員・業務委託を区別する際の注意点として、労働者性の有無という論点があります。労働者性を判断する上で重要となるのは、拘束性や専属性、使用性や賃金性といったものです。

以下チェックポイントに沿って確認していきましょう。


CHECK!1 専属性が高くないか?160時間近く労働していないか?

実質稼働予定時間月160時間のように、労働者と同じような拘束性のある稼働が生じていると、労働者性は高くなります。事実上他社から業務を受けるということが難しくなり、専属性が高まってしまうためです。一方で、ITベンチャー企業などで、労働時間の専属性が緩い方を業務委託として活用していることは多いですが、拘束性・専属性を緩めることで労働者性を下げることができ、偽装請負としてみなされるリスクもなくなります。


CHECK!2 全社会議、全社MTGなどの参加が義務付けられていないか?

こちらも拘束性や専属性といった観点から、 全社会議や全社MTGといったような、通常社員が出席してしかるべき会議に業務委託者も出席させるといったことは適切ではありません。情報共有の観点から良かれと思って業務委託者にも出席を命じてしまった、といった話をよく伺いますが、こうした事実によって社員との線引きがあいまいとなり、やはり拘束性や専属性が高まってしまいます。


CHECK!3 会社がPC端末などの業務使用品を渡していないか?

会社と業務委託者はお互いが対等である必要があります。従業員に貸与しているPC を業務委託者にも貸与するといったことはやはり専属性を高めることにつながってしまいます。PCに限らず、会議室などといった共用部分についても注意が必要です。

CHECK!4 時給制になっていないか?

労働者であれば時間に対して報酬が支払われますが、請負や委任であれば、成果物や処理した業務の内容に応じて報酬が支払われることが適切です。


以上、代表的なチェックポイントをご紹介しました。しっかり押さえて労働者と業務委託者との線引きを明確にし、会社としてそれぞれの皆様に対して適切な対応を頂きたいと考えています。



5.終わりに

労働者にも業務委託者にもそれぞれの特徴とメリットデメリットがあります。

例えば労働者であれば労働法で守られている反面、会社に対する時間的な拘束性や専属性は高まってしまいます。柔軟に他社でも働きたいといった希望を叶えることは難しいです。労働時間の上限規制や36協定といった、就労上の制約も受けます。

業務委託者であれば、自分の裁量で時間配分ができ、企業から拘束性や専属性を受けることなく自由に働くことができます。ただし業務遂行に必要な物品や会議室等はもちろん自分で準備しなければなりませんし、労働保険や雇用保険、社会保険の保護を受けることは原則としてできません。そのため不測の事態に対してはご自身で備えていただく必要があります。

各企業の皆様には上記をしっかり押さえた上で、会社の要望・就業者の希望の双方をすり合わせながら、会社と就業者の間で最適な関係を結んでいただきたいと考えます!




【執筆者プロフィール】

寺島有紀 寺島戦略社会保険労務士事務所所長 社会保険労務士

一橋大学商学部 卒業 新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。


2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。



その他:2020年7月3日に「Q&Aでわかるテレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。

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