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そもそもなんなん年末調整

年初には想像もできなかったような社会環境となった2020年も、残すところあと2か月。

ちょうど昨今クラウド化が大きく進展している領域として「年末調整」業務があります。従来は紙で各種申告書や控除証明書を社員から集めて、「控除証明書忘れました」「書き方が分からないのでとりあえず資料持ってきました」といったことが日常茶飯事でしたね。

そして近年は配偶者控除の改正等で申告書の書き方がより複雑になってきていた上に、令和2年から導入された「所得金額調整控除」を加えた申告書では、もはや一目で理解することができず、これを全社員にも理解して記入してもらうというのはかなり困難になってきました。

そのような年末調整業務の複雑化の流れの一方で、給与計算システムのクラウド化が進み「社員が自分たちで直接システムに入力する」方法で年末調整の一次資料を集める会社も増えてきました。

クラウドシステムに記載されてる手順通りに「Yes/No」で選択していけば、上記のような申告書を作成できるようになっており、各社とも年を重ねるごとに分かりやすくなってきています。

しかし、担当者としては各申告書の内容の理解に加えて、「ていうか、そもそも年末調整ってなんなん?なんでうちがやらなあかんの?」といった視点を是非持ち合わせて頂けると、目の前の業務に取り組む考え方が変わってくるのではないかと感じています。

クラウド化の進展により作業自体の簡素化が進むにつれて、担当者の仕事は「作業」から「業務の組み立て」に変わっていく。制度の趣旨や目的を理解することで、「本当に目の前の業務すべてに全力で取り組むべきか。会社として本当に時間をかけるべき業務は何か。」を判断する基準にもなるからです。

そもそもなんなん年末調整

社員のみなさんは会社から給与を受け取っているので、所得税を納める必要があります。所得税の申告は、原則は確定申告です。そのため当然原則としては「全員が所得税の確定申告をすればいい」ということになります。ところが年末調整制度というのは、その例外として、たとえば1社だけに勤めている人は会社が年末調整手続きをすることで、所得税の額を確定させて確定申告を不要とする制度です。

毎月給料から源泉徴収をされている税額は、たとえば入社時に提出する「給与所得者の扶養控除等申告書」を元に、扶養している親族の数等によって概算で計算されています。

その毎月の源泉徴収税額には、「生命保険料控除」や「地震保険料控除」などは考慮されていません。また、扶養している家族が「扶養控除」に該当するかどうかの判定は、その年の12月31日時点で行うため、「子供を年の途中まで扶養親族としていたのだけれど、思ったよりバイトの収入が多くなったので扶養控除が受けられなくなった」という時には、年末調整で税額を精算します。

住宅ローン控除に関しても最初の1年目は確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整で適用を受けることになります。住宅ローン控除は控除額も大きいので、還付が大きくなり、ちょっとしたボーナス気分ですが、そもそも毎月納めていた源泉徴収税額が高すぎたものを返してもらっているだけなのです。

毎月概算で納めている源泉徴収税額に、年末時点の各社員の状況を考慮して年税額を確定させ、社員に納めすぎている税額があれば還付し、徴収できていない税額があれば徴収する。会社が行うそうした業務が年末調整です。

そもそもなんで前もって源泉徴収されなあかんの?

こうして考えると、「なんで毎月の給料から源泉徴収されなあかんの?」という疑問も抱くのではないでしょうか。

給与所得の源泉徴収制度の歴史を辿ると、1940年に戦時中の戦費調達のために他国を習って導入された制度です。国としては確定申告で年に1回しか税金を徴収できないよりも、毎月給与所得者から源泉徴収で税金を徴収できる方が、安定して財源を確保することができる上、その徴税のための業務コストさえ雇用主に負担させることができます。

また、1947年に申告納税制度とともに導入された年末調整制度で税額の確定まで雇用主にさせるようになりましたが、多様な働き方が増えている中で、会社に多くの個人情報を提供する年末調整制度についてもこの時代に見直しても良いようには思います。

この年末調整制度は、会社にとっては任意ではありません。年末調整の対象となる社員については、雇用主は年末調整をしなければなりません。

「令和元年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」によると、令和元年分の所得税確定申告書を提出した人は2204万人。

また、「平成30年分民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者5,026万人のうち、年末調整を行った者は4,540万人(90.3%)となっています。

この給与所得者全員が確定申告をすると、税務署は対応しきれないということもその通りなのですが、本来税務署が窓口となって行うべき業務コストを会社が負担していることにも疑問を持つべきなのかもしれませんね。

政治に関心を向けることも一つなのかもしれませんが、会社の担当者としてはいかにこうした業務の効率化を進め、本来取り組むべき業務に注力するかという視点を持つことが重要です。

電子化が進む年末調整手続き

マイナンバー制度の導入以降、年末調整に必要な情報などはマイナンバーへの紐付けが進んでおり、今までのような紙でのやり取りが減少していくこととなっていくでしょう。

今年、令和2年分からは年末調整手続きの電子化が導入され、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等について、勤務先へ電子データにより提供できるようになります。

事前に税務署に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」の提出が必要なのですが、今後急速に電子化が進んでいく業務だと思います。

そうした際に「とにかく紙をなくそう!電子化しよう!」というような声も聞こえてくるかと思いますが、担当者の方には年末調整業務の効率化だけを考えるだけでなく、クラウド型の労務管理や会計業務と合わせた全体の流れがスムーズにいくように設計を考えてほしいと思っています。

税理士・中小企業診断士 S0U-MU PROJECT代表 田中 慎

経営者の良きパートナーになりたいと、税理士資格、 中小企業診断士資格を取得。2019年より 総務やバックオフィスで働 く人達のためのSOU-MUプロジェクトを開始。 「SOU-MU NIGHT」など、 起業家とバックオフィスで働く人達が地域で繋がり、支え合う環境づくりを目指している。

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