押さえておきたい、雇用契約と業務委託契約の違い~労務面からみるポイント~

1.業務委託から正社員に、正社員から業務委託に

新型コロナウイルスをきっかけに、会社業績が落ち込んだ、稼働が減ったなどを理由に、従業員を業務委託契約に切り替えたい、というご相談をいただくことは多いです。

また、インターネットの発達により、組織から個に注目が集まっていること、多様な働き方が身近になったことなどから、個人においても、労働者として雇用される働き方でなく、フリーランスや個人事業主としてやっていきたい!という方が年々増えている印象です。

とはいえ、雇用契約と業務委託契約の違いをしっかり押さえている方は多くありません。

労務的には雇用と業務委託は全くの別物ですので、この区別を曖昧にすることは会社にとって非常にリスクが高いです。

今日は雇用契約と業務委託の違いを、労務の観点からお届けします!

2,業務委託契約とは?

対象企業や対象者の間で、請負契約や委任契約を交わして業務を行う形です。

請負契約や委任契約はいずれ民法上の契約の一形式です。請負とは民法の第632条に基づき、労働の結果として仕事の完成を目的とする契約形態です。一方委任とは、善良なる管理者の注意をもって業務を処理する、民法第643条、第656条に基づく契約形態です。

業務委託契約を結んでいる方が、相手方から支払われる対価は、賃金でなく「報酬」となります。あくまでも成果に対して支払われる報酬であるので「〇時間やったから!」という時給の性質、「出勤日は〇日、お休みは〇日」という月給の性質などは業務委託の概念と一致しません。

3,雇用契約とは?

雇用契約に関しては、各法律に定めがあります。

民法623条では「一方が労働に従事し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約する契約である」と定義されています。また労働契約法6条では、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、合意することによって成立する」とされています。

正社員、契約社員、アルバイトやパート、形態はさまざまですが、すべて使用者と雇用契約を結んで、「労働者」として労働に従事することになります。「労働者であるか、労働者でないか」の基準は非常に重要で、労働者に対しては様々な法律で制約がある一方で、手厚い保護もされています。しかし、業務委託者に関してはこれらがおよびません。詳細は次に述べます。

4、労働者、業務委託者に発生する労務面での違い

労働者であれば、労働基準法のもと最低賃金が適用されたり、時間外や休日労働は36協定の範囲内でしかできなかったり、働かせ方・働き方には様々な制約が及びます。また、労災保険には強制加入することになりますし、労働時間等の条件を満たせば雇用保険、社会保険(厚生年金、健康保険)に加入することになります。労働者は、労災保険以外の保険の保険料を月々負担することにはなりますが、各種保険に加入でき、失業したら失業保険の対象、厚生年金という二階建て年金の対象となることなどが可能です。

一方で業務委託者の場合には、働き方に大きな裁量と自由度が与えられている反面、労働者に対するような保護はおよびません。具体的には、厚生年金や健康保険は、国民年金・国民健康保険に加入することになります。そのため、二階建て年金ではなくなるため、将来の年金額が国民年金部分になることや、国民健康保険は扶養という概念がないため扶養がいる方については特に保険料が高額になることが挙げられます。また雇用保険・労災保険は対象外となること(一部職種によっては労基署に個別に相談し認められれば特別加入は可能。しかし保険料は自己負担)があります。

5,社員・業務委託の切り替えを行うときの注意点①偽装請負

見てきた通り、業務委託者となるか、雇用契約を結んで労働者となるかは、大きな違いがあります。社員・業務委託の切り替えを行うときの注意点で、なんといっても労務的観点で最も大きいものは「偽装請負」に該当しないかという点です。労働者性を判断する上で重要となるのは、拘束性や専属性、使用性や賃金性といったものです。

例えばいわゆる専門的スキルをもった人材であっても、実質稼働予定時間月160時間のように、労働者と同じような拘束性のある稼働が生じたことで、事実上他社から業務を受けるということが難しい・・・といったことがあると専属性が高いとみなされます。一方で、ITベンチャー企業などで、労働時間の専属性が緩い方を業務委託として活用していることは多いですが、こうした拘束性・専属性が緩い方であれば、偽装請負としてみなされるリスクはほとんどありません。

また、労働者であれば時間に対して報酬が支払われますが、請負や委任であれば、成果物や処理した業務の内容に応じて報酬が支払われることが適切です。

もし、もともと社員であった方を業務委託者に変更する場合、懸念されるのは労働時間の専属性が高くなるのではないかといった点です。もともと労働者であった方ですから、今後も月の稼働時間は多くならざるを得ないのではないか、といった点があります。

できるのであれば労度時間を減らすということが望ましいですが、そのうえ会社がその他の部分も工夫することでも「労働者性は高くない」と主張することが可能だと考えます。

その他の部分とは、例えば下記のような点です。

①労働場所の拘束性を緩めること(どこで稼働してもOK、出社を要しないなど)

②一日の稼働時間の拘束を設けないこと(労働者のように10:00~19:00の稼働を義務付けるなどはNG)

③他社での業務委託を受けることに制限を設けていないこと

④貴社からの業務依頼について受託するかしないかの自由があること

⑤当然社内規程や服務規律は適用されないこと

⑥労働保険および社会保険に加入しないこと(会社負担は発生しない)

⑦器具や備品を貸し出さないこと

⑧他人によって代替可能な業務をまかせること

このような点で労働者性を弱めるような工夫は必要かと考えています。

6,社員・業務委託の切り替えを行うときの注意点②契約期間

また、業務委託は有期契約のため、今まで正社員で無期契約だった方であれば、今後はいつ契約が切られるかという不安に駆られる方もいると考えます。こうしたことを踏まえ、転換から最低でもこのくらい働いてもらいたい、という期間や更新基準を明確にして合意しておく、賃金についても今までより本人の保険料等の負担は増すわけですから、時給ベースでは増額を行うこと等は業務委託契約への転換とセットで考えるべき事項になるものと考えます。

7,社員・業務委託の切り替えを行うときの注意点③各種保険の取扱い

前述の通り、業務委託者は労働者ではないので、労働者であれば通常加入する、労災保険、雇用保険、社会保険(厚生年金・健康保険)には入れません。

フリーランスや個人事業主は「雇用」されている形でないため雇用保険には入れず、健康保険も国民健康保険を利用することになります。一方で、労災に関しては条件に合致する場合「特別加入」が認められています。労災の適用範囲外となると、万一業務中に事故や災害に遭ったりした時に深刻な事態となるため、他の保険より広く加入が認められているということになります。

保険料は対象者の負担とはなってしまいますが、昨今ITフリーランスの方、自転車配達員、芸能制作作業従事者に労災の特別加入が認められることになっています。ただ、具体的な業務によって加入可否が分かれており、必ず特別加入できるというわけではありません。最終的には労基署の判断によります。

8.切替前には、よく確認を

企業にとっても、対象者にとっても、雇用契約と業務委託契約は大きな違いをもたらします。もし労働者としての実態が確認できるのであれば、雇用契約を締結せねばなりません。「労働者でないのだから36協定の対象外とできる」「雇用されていないのだから副業兼業が好きなだけできる」などと一側面だけで判断せず、総合的な事情を勘案して、お互いにとってベストな選択肢を採用して頂きたいと考えます!

【執筆者プロフィール】


寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部 卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

HP: https://www.terashima-sr.com/

2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。


その他:2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。


2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理ーー初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまでこの一冊でやさしく理解できる!」を上梓。

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