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執筆者の写真Gustavo Dore

偽装請負ってなに?業務委託契約と雇用契約の違いを理解していますか?

1. はじめに

「偽装請負」という言葉を聞いたことがありますか?

「偽装派遣」「偽装委託」など、発生している事実上の状態は同じであっても、言葉上では様々な名前が存在しているためややこしいのですが、ざっくり言えば

会社で労働者として雇用しているのと変わらない実態があるにもかかわらず、就労形態や契約名を偽装して、本来は労働者に対して果たさなければならない会社としての労働基準法上の責任等を回避しようとすることを言います。

例えば業務委託契約を締結しているフリーランスが実質的に自社の労働者と変わらない働き方をしている場合を「偽装請負」と呼んだりします。

今回はこの偽装請負について解説していきます!

2. 業務委託契約と雇用契約の違い

業務委託契約と雇用契約は全く異なるものです。

雇用契約とは、労働と引き換えに報酬を与えることを約束する契約であり、

雇用契約を結んだ場合、働く人は労働者となります。労働者には労働基準法をはじめとする最低賃金法等の各種労働法が適用され、また労災保険、雇用保険、社会保険等の加入対象となります。労働者保護法制が根強い日本において、雇用契約はかなり手厚く守られおり、企業が労働者を解雇するといった場合にも、その解雇の要件は厳しく判断されます。

一方で業務委託契約とは、一方が特定の仕事を処理し、この処理された仕事と引き換えに相手方が報酬を支払うことを約束する契約であり、いわば依頼側の企業と依頼された側の業務委託者は対等の関係となります。そのため業務委託契約の場合、雇用契約と異なり業務委託者は各種労働法では守られません。

3. どういう業務委託が問題となる?偽装請負の要件とは

業務委託者は通常労働者ではないため、通常の社員のように社会保険・雇用保険の加入や労災加入等の必要はなく、さらに労働基準法や最低賃金法なども適用されません。

また、現在の日本の雇用環境では通常雇い入れた労働者については、労働契約を解消すること、とりわけ解雇などはその要件は厳しくなっている一方、業務委託者については労働者のような契約解消の厳しい規制などはありません。

このようなメリットを享受するために、実態は労働者であるのに、業務委託者として取り扱うことが「偽装請負」が発生してしまう構造です。

こうした「偽装請負」は違法となり、労働局の指導対象、罰則の対象となってしまうことがありますので、十分な注意が必要です。

具体的には、フリーランスが下記の基準に当てはまっている場合に問題となります。

(昭和60年 厚生労働省「労働基準法研究会報告 労働基準法の「労働者」の判断基準について」より)

1. 指揮監督性についての判断基準

 ①仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由がない。

 ②業務遂行上の指揮監督がある。

 ③勤務時間・勤務場所等の拘束性がある。

 ④他人による労務提供の代替性がある。

2. 賃金性(報酬の労務対価性)の判断基準

①報酬が労働時間の長さによって決まる 。

②欠勤した場合には報酬から控除される。

③残業をした場合には割増手当が支給される。

3. その他の労働者性を補強する要素

①機械・器具の負担がない。

②専属性が高い。

③社会保険料の控除や所得税の源泉徴収公租公課の負担がある。

④服務規律や福利厚生等の適用がある。

例えば、具体的に仕事の進め方を企業が決めたり、オフィスに必ず9時から17時まではいるように義務づけたり、報酬を時給で決めていたり等は偽装請負とみなされるリスクが高くなります。

また、良かれと思ってPCを貸与したり必要な器具を貸与したり、交通費を負担してあげたりしているというお話をよく聞きますがこれらも注意が必要です。

上記の基準は総合的に勘案され労働者性を判断するので、一つその基準に当てはまっているから直ちにだめということではないのですが、必要な器具を貸与する場合でもレンタル料金を徴収したり、交通費は自分で負担してもらった方がリスクは低減します。

すでに業務委託契約を結んでいるという企業は、今一度この点を確認してみると良いかもしれません。

4. 終わりに

業務委託人材の活用はメリットが多くこれからも進んでいくものと考えられます。

適正な業務委託契約を結ぶことにより、企業内で活躍してもらうことができれば、企業にもたらすメリットは非常に大きく、心強い存在となるでしょう。

そのためにも上記で述べたような、業務委託者が労働者としてみなされることのないようにポイントを押さえることは、無用なトラブルを防止するために重要です。

フリーランス人材は、高い専門性を持ちプライドを持って業務に臨む方が多く優秀な方が大勢いらっしゃいます。

企業はこうした人材を、単なる雇用の調整弁のように考えるのではなく、対等な経営のパートナーとして自社で迎え入れるという意識を持つことが、フリーランス人材の活用の成功のポイントとなり、偽装請負問題等のリスクの低減にもつながるものと考えられます。

【執筆者プロフィール】

寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部 卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。



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