1,はじめに
2021年現在、個人の立場で働く「フリーランス」は、民間の調査(ランサーズ 『フリーランス実態調査 2021』)によれば1,600万人を超えるといわれています。
これは、副業元年と言われた2018年と比較しても500万人以上増加していることとなっているそうです。
また同調査によればフリーランスの経済規模は2021年は28兆円に上るということ、こちらも2018年からは約8兆円増加しているということです。
コロナ禍で在宅勤務等が増え、通勤時間等が減ったことなどで余剰時間が生まれ、新たな働き方を模索した方が増えたことなどが影響しているものと考えられます。
このようにフリーランスの存在感はますます増してきている一方、いまだフリーランスの方への労働法規制や社会保障が十分ではないという現状があります。
企業で雇用される社員が当然に保障される権利の数々が、フリーランスには適用されない例は多くあります。
ただこのような流れも改善の兆しが見られ始めています。
今回は昨今ニュースでも話題になっているフリーランスの保護法制やフリーランスと労働法の関係について解説していきます。
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2,そもそもフリーランスは労働基準法が適用されるの?
そもそもフリーランスには労働基準法をはじめとした労働法が適用されるのでしょうか?
答えはNOです。
というのも労働基準法は「労働者」に適用される法律であり、労働基準法ではこの労働者の定義を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」としています。
ざっくりいえば、労働基準法は企業に「雇用されている」方、つまり雇用契約を締結して働いている方が適用されることになります。
一方でフリーランスは雇用契約を締結して企業から指揮命令を受けて働いているのではなく業務委託契約のもと特段の拘束性等はなく、発注者から依頼された業務を遂行するといった働き方です。
◆雇用契約とは?
一方(労働者)が労働に従事し、相手方(使用者)がこれに対してその報酬を与えることを約束することを内容とする契約をいいます。
雇用契約の対象となる「労働者」にあたる場合は、労働基準法や労働契約法上の保護を受けます。
◆業務委託契約とは?
業務の発注者(委託者)が、受注者である相手方(受託者)に対して業務を委託し、受注者は発注者から委託された業務を遂行し、対価(報酬)を受け取ることを内容とする契約をいいます。
業務委託契約の対象となる場合には、労働基準法や労働契約法上の保護は受けることはできません。
雇用契約で働く労働者と業務委託契約で働くフリーランスにはこのように労働基準法をはじめとした労働法が適用されるか否かで、大きな違いがあります。
3,フリーランスの偽装請負問題とは?
企業にとって、労働法制が適用されず、社会保険料もかからず、特段給与計算等も不要であるため積極的にフリーランスを活用する企業も多いですが、労働法制が適用されないというのは、あくまでも「フリーランスとして会社から指揮命令等を受けず、拘束性もないといった実態」が確保されている場合に限ります。
労働者とフリーランス・業務委託には下記のような違いがあります。
フリーランスとして名目は業務委託契約を結んでいても、実態は勤務時間や勤務場所が拘束されていたり指揮命令されていたりすれば、これは「偽装請負」とみなされ、企業には、社会保険に加入させる義務や未払い賃金の支払い義務が生まれます。
フリーランスを活用する企業は、フリーランスの働き方が今一度雇用契約に基づく労働者のようになっていないかは確認したいところです。
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4,フリーランスにもセーフティーネット拡大の動きが
このようにセーフティーネットが弱いフリーランスではありますが、冒頭で述べたようにフリーランスの存在感がますます増してきている現在、いよいよ政府としてもフリーランスの保護を進める方針が打ち出されてきています。
政府は、2021年3月に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定しました。
このガイドラインの中では、フリーランスとして働く人を保護するため、仕事を発注する企業が正当な理由がなく報酬を著しく低く設定したり、報酬の支払いを遅らせたり一方的に仕事を取り消したりすることが、独占禁止法上の優越的な地位の乱用にあたるなどが明記されています。
また、2021年8月には、コロナ禍でフリーランスの収入源が減っている中、一方的に業務をキャンセルされるなどのトラブルが相次いでいることを受け、政府はフリーランスで働く人の法的保護を強化するため、業務発注時に契約書面の作成を義務付ける事業者の対象を拡大する方針を固めています。(来年の通常国会に関連法案を提出する方向で調整しているとのこと)
また、厚生労働省はフリーランスのセーフティーネットの拡充のため、これまで労働者のみが対象であった労災保険について対象を広げています。
そもそも労災保険とは労働者が仕事中にけがをしたり病気になったりした際に治療費や休業補償を給付するもので、企業が保険料を負担する制度です。
2021年9月からこの労災保険について、いわゆる自転車配達員やITフリーランスの特別加入が認められることになりました。
フリーランスの中でも多いIT業界のフリーランスの方は、任意でこの労災保険に加入することで、業務中のケガや病気が、労災保険による給付の対象となります。(但し、保険料は個人負担になります。)
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5,終わりに
いかがでしたでしょうか。
現在フリーランスを活用する企業は増えてきていますが、今一度自社で活用するフリーランスの方が労働者のような実態になっていないかは企業として確認は必要です。
また、フリーランス保護の流れは今後も大きく動くことが予想されるため、フリーランスを活用する企業の実務担当者の方も引き続き注目していきたいトピックです。
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【執筆者プロフィール】
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。
その他:
2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。
2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理ーー初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまでこの一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
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