top of page
執筆者の写真Gustavo Dore

これは労働時間になる?ならない?<br>迷いがちな労働時間の考え方をケース別に紹介!

1,はじめに

新型コロナウイルスの感染がやや落ち着くと見えた9~10月頃、顧問先様からは「出張を再開したいのだが、移動時間の取扱いをどうしたらいいか」というお問い合わせが相次ぎました。2年以上ぶりの出張再開ということで、企業担当者も戸惑いが多かったことと考えます。

他にも、「研修時間の取扱い」「労働者が自主的にオフィスに早く着いた場合の時間の取扱い」

など、個別具体的な「このようなケースは労働時間になるか否か」というご相談を受けることはよくあります。

さて、厚生労働省から「労働時間の考え方:研修・教育訓練等の取扱い」というリーフレットが出ているのをご存じでしょうか。こちらでは、労働基準監督署へのお問合せが多い、ケース別の取扱いを解説しています。本日はこちらに沿って、判断に迷いがちな労働時間の考え方を解説していきます!

2、労働時間とは?

そもそも労働時間とは、どのような時間のことをいうのでしょうか。

労基法関連通達や判例から、以下の通り整理することができます。

・労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。

・使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に該当します。

そのため、労働時間に該当するか?の判断を行うにあたって、「使用者の指揮命令下に置かれている」「使用者の明示または黙示の指示はあったか」は重要なポイントとなります。

3,【ケース1】研修・教育訓練の取扱いは?

研修・教育訓練について、業務上義務づけられていない自由参加のものであれば、その研修・教育訓練の時間は、労働時間に該当しません。

一方で、研修・教育訓練への不参加について、就業規則で減給処分の対象とされていたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されている場合には、研修・教育訓練であっても労働時間に該当します。

【労働時時間に該当しないケース】

・終業後の夜間に行うため、弁当の提供はしているものの、参加の強制はせず、また、参加しないことについて不利益な取扱いもしない勉強会。

・労働者が、会社の設備を無償で使用することの許可をとった上で、自ら申し出て、一人でまたは先輩社員に依頼し、使用者からの指揮命令を受けることなく勤務時間外に行う訓練。

・会社が外国人講師を呼んで開催している任意参加の英会話講習。なお、英会話は業務とは関連性がない。

【労働時時間に該当するケース】

・使用者が指定する社外研修について、休日に参加するよう指示され、後日レポートの提出も課されるなど、実質的な業務指示で参加する研修。

・自らが担当する業務について、あらかじめ先輩社員がその業務に従事しているところを見学しなければ実際の業務に就くことができないとされている場合の業務見学。

会社での「研修・教育訓練」の時間が労働時間に該当するかについては、のちのち見解の違いからトラブルになりやすいです。あらかじめ労使で取扱いを話し合い、確認しておきましょう。

3,【ケース2】仮眠・待機時間の取扱いは?

ここでも上で見てきたポイント「使用者の指揮命令下に置かれているか」「使用者の明示または黙示の指示はあったか」が関連します。

上述の厚生労働省「労働時間の考え方:研修・教育訓練等の取扱い」リーフレットでは、以下の通り整理されています。

・仮眠室などにおける仮眠の時間について、電話等に対応する必要はなく、実際に業務を行うこともないような場合には、労働時間に該当しません。指揮命令もなく、使用者の明示または黙示の指示もないとすることが可能です。

・待機時間、手待ち時間も、指揮命令もなく、使用者の明示または黙示の指示もない時間、つまり「労働者が特別な指示を受けず、自分の自由に使える時間」と整理することができるため、労働時間となりません。

ただし、労働者の仮眠時間を労働時間と認めた判例もあります。(大星ビル管理事件)

労働法的にはたとえ業務をしていなくても「待機しつつ、なにか業務が発生したらすぐに対応できるように待機させる時間」は「手待ち時間」とするという考え方があり、これは残念ながら労働時間の一種となります。大星ビル管理事件は、ビルの警備・管理員が、住民や来訪者からの要望に対応するため、所定労働時間の前後に管理員室のすぐ近くの居室に待機させられていた時間(仮眠時間を含む)の労働時間性を認めたものです。

ビル警備などで夜間仮眠していても、なにかあればすぐに対応できるような待機時間は手待ち時間として労働時間となる、それがたとえ仮眠時間であっても労働時間になる、という判例を踏まえて、実態と照らしケースバイケースで判断することが良いと考えます。

4,【ケース3】自主的に早く来た時間や、更衣など、労働時間の前後の時間の取扱いは?

「従業員が自主的に会社に早く来た時間は、業務時間として打刻させるべきなのか?」「着替えの時間はどう取り扱えばいいのか?」こちらも非常にお問い合わせの多いケースです。

交通混雑の回避や会社の専用駐車場の駐車スペースの確保等の理由で労働者が自発的に始業時刻より前に会社に到着し、始業時刻までの間、業務に従事しておらず、業務の指示も受けていないような場合には、労働時間に該当しません。

また、更衣時間について、制服や作業着の着用が任意であったり、自宅からの着用を認めているような場合には、労働時間に該当しません。

【労働時間に該当しないケース】

・従業員が自主的に始業前に会社に到着し、業務に従事せず自席でコーヒーを飲んでいる時間。

5,【ケース4】直行直帰・出張に伴う移動時間について

さて、直行直帰の場合の移動時間、出張に伴い発生する移動時間についてはどうでしょうか。

前提として、「移動時間は通勤時間と同様、使用者から別段の指示命令がない限りは労働時間としなくてよい」ということになっています。たとえば、出張先での仕事のために休日に遠方に向かう場合であっても、その時間に物品の監視などの命令がなく、業務に従事することもなく、その時間を労働者が自由に使える場合は労働時間に該当しません。

【労働時間に該当しない】直行直帰・出張に伴う移動時間の取扱い

・取引先の会社の敷地内に設置された浄化槽の点検業務のため、自宅から取引先に直行する場合の移動時間。

・遠方に出張するため、仕事日の前日に当たる休日に、自宅から直接出張先に移動して前泊する場合の休日の移動時間。

なおご参考まで、移動時間は特段の指示がなく自由な利用が保障されていれば労働時間とならないということが原則ではありますが、顧問先の皆様からは「業務に必要を行っているだけなのに、本来の所定労働時間を満たせないのはかわいそう」という声をいただくことがあります。

そのようなときに顧問先様にアドバイスしているのは「所定労働時間内の移動であれば、労働時間と扱う」「所定労働時間外の移動であれば、原則通り労働時間としない」というやり方です。これであれば必要ない道は労働時間に参入しつつも、移動のせいで残業が発生したり、36協定の限度時間を圧迫したりといったことを避けることができます。

もしこうした取り扱いをするのであれば、事前に社員向けのガイドやマニュアルで周知しておくことが望ましいです。

6.おわりに

ひと昔前に比べて勤怠管理システムがかなり発達した昨今であっても、従業員の個別の勤怠管理にはどこの会社の人事労務担当者様も頭を悩ませています。

突然起こった例外的なケースについて、なるべく従業員に不利な取り扱いをしないということはもちろんですが、一度有利に取り扱うとそれが労使慣行となり、従業員の既得権と化し、後から変更するのは難しいということも考慮に入れ判断していかねばなりません。

このリーフレットで示した事例を参考にしつつ、さらに「どうしたものか、、、」という事態が発生した場合には、お近くの労働基準監督署にご相談ください。また、会社はこうした労働時間の考え方や個別の取扱いの知見などを、なるべくガイドやマニュアルで従業員に共有していくと、混乱が避けられ望ましいと考えます。

【執筆者プロフィール】


寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部 卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。


その他:2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。


2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理ーー初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまでこの一冊でやさしく理解できる!」を上梓。

閲覧数:2回0件のコメント

Comments


bottom of page