今回、湘南やさしい日本語プロジェクトの代表である井上恵さんと対談をしました。
恵さんは日本語教師として、日本企業で働いている外国人の社員の方たちに日本語の研修を行っています。
また一方で、日本の人たちにも 外国人に伝わりやすい“やさしい日本語”を学んでもらうことで、日本人と外国人のコミュニケーションがもっとうまくいくようにお手伝いをしています。
湘南やさしい日本語プロジェクト
代表 井上 恵(いのうえ めぐみ)さん
私は、外国人の日本での働き方について 恵さんと話していてとても面白いと感じ、このプロジェクトのような仕組みが自分の働いていた会社にもあったら良かった、将来的に自分の会社にも取り入れたい素敵な仕組みだと思いました。
外国人が日本で働くことについてもう少し深掘りしたいと思います。
まず、ほとんどの人が「外国人が日本人に合わせるべき」と思うこともありますが、それには限界もあります。
Q. 湘南やさしい日本語プロジェクトのきっかけは?
外国人の社員の人に日本語を教えていると、日本語能力試験(N1~N5のレベルがある)で一番高いN1というのを取って日本語がペラペラに見える人でも、心の中では「自分の日本語が正しく伝わっているかどうか不安だ」とか「日本人の日本語を正しく理解できているかどうか不安だ」と言っています。
実は日本語の習得、勉強には数千時間かかり、数千時間かけていても大変なことです。
日本語には日本語の難しさがあって、日本人の側が1時間でも2時間でも“やさしい日本語”を勉強すれば、その数千時間を埋めることができます。
これは凄いことです。
正直言うと私はN2とかN1を持っていません。
でもポイントとしては、日本語を喋れば喋るほど文化と言語を混同されてしまうことが多く、言葉が分かっているからと勝手に文化的な話を交えて「これが当たり前でしょ」と言われることも多く、「ちょっと待って!言葉は分かるけど その論理はちょっと違うんじゃない?」と思っていました。
Q. そういうエピソードも多いみたいですね
そうですね。言葉が通じない、日本語ができない外国人の方に対しては「あっ!外国人だ、もう無理です!私は英語ができません。さようなら」という感じで壁ができてしまう一方で、日本語ができる外国人の方には 逆に「もう日本人と一緒だね、分かるよね?当たり前だよね」という風になってしまうのもすごく問題で、日本人の当たり前は実は当たり前ではないというのはきちんと言葉で伝えていかないといけないことですよね。
Q. やさしい日本語プロジェクトは湘南の他にもいろいろな地域にありますが、このプロジェクトは具体的にどういうことをやっていますか?
日本の人にやさしい日本語を教えるというのが主な内容ですが、ポイントとしては2つあって、まず「言葉」です。
これは日本語を勉強したばかりの、まだ日本語のレベルがそんなに高くない人たちと話す時にどういう言葉を使ったらいいのかという、言葉の言い替えや表現のコツを教えるのが1つです。
もう1つは、先ほどの文化面のエピソードのような 当たり前 というのが、日本の当たり前は外国の人の当たり前ではなく、それを押し付けるのではなくてちゃんと違いを認めていこう、違うことを当然と考えていこう という気持ち、優しい気持ちを持つということ。
この2つを中心に教えています。
Q. 具体的に難しい日本語とやさしい日本語はどこが違いますか?
最近コロナウイルスの感染が心配で、いろいろなところでマスクの着用をお願いするようなことがあると思いますが、例えば普通によく使われている日本語として『感染対策としてマスクを着用されないお客様の入館はご遠慮ください』ですね。
「着用」や「入館」という言葉が初級の人にはちょっと分かりにくいので、やさしい日本語に置き換えると、シンプルに「つけてください」「使ってください」が一番分かりやすく伝わります。
もっと分かりにくい言葉ですと、『マスクを着用されていないお客様にはお声をかけさせていただくことがあります』という表現です。「声かける」って何ですか?となりますね。
そもそも、「ご遠慮ください」というのは翻訳で外国人からするとやっていいという解釈です。ちょっとだけ控えめにやっていいという意味になります。
でも実は、ご遠慮くださいという表現は やってはだめ という意味で使われますが、これは私も何年も日本にいて分かったことです。
それから外国人でホテルの接客に慣れている人は多いですが、私が体験して一番微妙だと感じたのはデパートのインフォメーションです。
例えば案内をしてもらいにデパートのインフォメーションに行っても、わざと難しい日本語をトレーニングされているので、せっかく説明してもらったのに結局それも分からないということがあります。
正直言うと、外国人はほとんどの場合が丁寧な言語を使っているかどうか分からないです。
わかるように伝えることが大事です。
恵さん:
日本人は丁寧な言葉を使うことがおもてなしという風に勘違いをしてしまっていて、丁寧な言葉を使わないと失礼ではないかという思い込みもありますが、伝わらないことが一番だめですよね。
分かりやすく伝えるというのが一番のおもてなしですね。
ただ、外国人の方は子ども扱いをして欲しい訳ではないので、子ども相手のようにタメ語で「マスクしてね」と言ってほしい訳ではなく、ちゃんと“です、ます、ください”を使った丁寧な表現を使えば分かりやすく伝えることができます。
自分のエピソードで言うと、たまに日本に来たばかりのブラジル人に銀行口座を開設するためにサポートを頼まれることがあります。
そのブラジル人は少し日本語が分かっていて、日本の丁寧な言葉だけ分からないので、その丁寧な(難しい)言葉をやさしい言葉にしたら翻訳もいらなかったということがあります。
でも電話のカスタマーサポートは大体が難しい日本語を使っています。
恵さん:
外国の方とお話しするときに、相手の方の日本語理解レベルもありますが言葉を選んで“です、ます、ください”で話すこと、そして「はっきり」「最後まで」「短く」これをハサミの法則と呼んでいますが、このハサミの法則で話すと翻訳機や通訳がなくても日本語で話せる人はすごく多くなると思います。
ぜひぜひ、広めてほしいです!
Q. では、当たり前についてのエピソードを1つ教えてください。
私たち日本人は当然のように使っていると思いますが、例えば『今日お客さんに会うからきちんとしてね』という“当たり前”の表現です。
きちんとって何ですか?という話だと思いますが、実は年代によっても職場によっても、そしてもちろん国によっても違ったりするので、「きちんとする」とは どんな服なのか、どういう風に片付けておくのか、確認が必要となります。
僕が日本に来た時にはビジネスカジュアルでもよく悩んでいました。
ブラジルのビジネスカジュアルと言ったら半ズボンです(笑)日本と全く違います。
恵さん:
日本だとリクルートスーツ、就職活動する時のスーツと言ったら黒かグレーで、白い柄のないシャツを着ますよね。
でも実は外国の方あるあるなのが、「ちゃんとした服を着てくださいね」と言ったら、襟は付いているけれど赤いシャツを着てくるとか、半ズボンではなくちゃんと膝も脚も隠していますがジーパン姿というのがあって、それは当たり前が違うので「ちゃんとしてきちんとした服」というのははっきり具体的に言わないと伝わらないというのがあります。
私は日本人と結婚しているのですが、夫婦喧嘩はほとんどが当たり前の違いで生まれています。ブラジルと日本のそういう違いがぶつかるところです。
たまに奥さんには、私が日本語を喋っているために外国人ということを忘れちゃうと言われます(笑)
恵さん:
やさしい日本語の講座を受けてくださった方の感想ですと、日本人同士のコミュニケーションでも役に立つね というのはよく言われます。
今の夫婦の話もブラジル人と日本人だから違うところもありますが、実はイノウエさんの家とタナカさんの家でそれぞれ違うことによって起きたり、年齢が違ったり、地方や東京と関西で違ったりと、日本人同士だと“同じだよね”という空気があって逆に説明しなかったり、丁寧に言わないということがありますが、日本人同士でも当たり前は違うということに気がつくと、外国人と日本人だけではなくてみんなに優しくなれてお互いイライラしなくなりますね。
私が伝えたいことは、日本人は最低限しか喋っていないことに気がつかないことです。
ちょっとだけ喋ってそれで伝えたと思ってしまいがちですが、文章が長くてもいっぱい喋っても良くて、期待することや望むものをできるだけ明確に伝えることをおすすめします。
私の会社は日本人も外国人もいるので説明しやすく、「外国人も読むからちゃんと細かく書いてね」と伝えるのですが、それでも「相手が指示通りにやってくれない」と相談を受けて指示内容を見てみると、まさに当たり前を色々思い込みで指示をしていて、これだと全然分からないじゃんということがあります。
例えば「短めに」と指示をしたとして、あなたの短いとは1週間なのか1日なのか、数時間なのか分からないですよね。
「早めにメールください」というのも、私にとっての早めは“今日中”ですが人によっても1時間以内のことを言っていたりと様々です。
Q. どんな会社がすでにやさしい日本語プロジェクトを導入していますか?
外国人を採用している企業や、外国人をおもてなしする主に観光系の企業で導入をされていたり、最近では技能実習の人や介護施設で働いている方もやさしい日本語が使われるようになってきています。
Q. 今後このプロジェクトをどのように展開していきたいですか?
現在いろいろな企業でも注目されていますが、本当に外国の方が日本で生活するとあらゆるところで日本語の壁にぶつかっているので、それこそ病院にしても行政の市役所にしても、そしてこれから湘南とかは海の季節になってきますが、海を守る人たちのところにも伝えていきたいと思いますし、あとは学校現場などで保護者と先生とのやりとりがすごく大変になってきますし、色々なところで本当に使えるのでたくさん行きたいところがあります。
ただやはり今まで私たちは日本人ばかりの環境に慣れ過ぎているので、ちょっと閉鎖的な感じで、何も疑問を持たずにただ周りと同じにいるということを考えています。
しかし先ほどのビジネスカジュアルの話も、何色のシャツなのかというところについても「ここは日本なんだから日本に合わせて」とするのは何も考えていないので、「赤もあるんだね、似合うね」とか、そういう違ったところを閉じ込めていくのではなくて、面白いねという風にしていくと きっといろんな場所で日本の人たちもいろんな刺激を受けて、考えるきっかけになって、当たり前のことが本当にそれって必要なことだったのかなと考えるきっかけにもなったりしますよね。
めんどくさいじゃなくて面白いという意識にしていけたらすごく最高だなと思います。
いろんな人に刺激を与えて、外国人差別が減るというよりも、違う当たり前もありだよね、それでもいいじゃんと思えるようになるといいです。
日本語は世界でTOP5の難しい言語として捉えられているようなので、外国人に対して日本人がやさしい日本語を使うことは、仕事をする上ではもちろん、その他のコミュニティやプライベートでもコミュニケーションが円滑になり、とても効率がいいと思います。
また、集団行動の多い日本の学校の中で、外国人の子どもたちがどうなってるのかということをあまり考えていませんでした。
正直言うと日本の当たり前に対して、「別にいいじゃん、それで何が悪い?」と思うところもあって、恵さんの考えやプロジェクトをすごく応援したいと思います!
私もやさしい日本語プロジェクトを日本で広めたいと思っています。
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CEO グスタボ・ドリー
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