1.はじめに
2021年1月、新型コロナウイルス第三波の到来により発出された緊急事態宣言。拡大感染防止策の一環である「夜8時までの時短営業」、「終電30分繰り上げ」などの影響で、飲食業を中心に、企業の業績が非常に厳しくなっています。飲食業以外の各業界においても、働き方が大きく変わってしまった方は多いのではないでしょうか。
やむなく仕事を失った際、退職後の生活を支えてくれるのがいわゆる失業手当ですが、こちらの失業手当が「雇用保険」から給付されるものであることは知っていますか?
今回は雇用保険制度に着目して、押さえておきたいポイントを解説します!
2.そもそも雇用保険とは?
雇用保険は政府が管掌する保険制度です。適用は事業単位となり、労働者を一人でも雇用する事業は強制的に適用事業となりますが、例外もあります。5人未満の労働者を使用する個人経営の農林水産の事業の一部については、強制適用事業場から除かれ、暫定的に任意適用とされています。
雇用保険では、雇用に関して、
①失業等給付の支給(求職者給付、雇用促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付)
②育児休業給付の支給などが行われます。
会社を辞めたあとしばらく失業手当をもらった・・・という方も多いのではないでしょうか。このいわゆる失業手当は雇用保険の代表的な給付の一つですが、正式には基本手当といい、離職の日以前2年間(算定対象期間)に、賃金支払いが11日以上あった月を1か月とした被保険者期間が通算して12か月以上あれば、離職の日以前6か月間に支払われた賃金の50~80%に相当する額が支給されます。
育児休業中の方が受給できる育児休業給付も受給したことがある方も多いかと思います。これも雇用保険の代表的な給付です。
雇用保険制度の事業や給付内容は多岐にわたるため本稿ではすべて説明しませんが、いずれも労働者の生活の基盤を支え、労働者の能力開発を支援する重要な保険制度といえます。
3.加入の要件や保険料の負担について
雇用保険の適用事業所に勤務している労働者は、基本的にそのほとんどが雇用保険の適用者となり、被保険者となります。しかし、一定の条件を満たさない短時間労働者、法人の代表者や家事使用人、同居の親族等は対象とならないため注意が必要です。「一定の条件を満たさない短時間労働者」については下記のとおりとなりますが、詳細は次の章で述べたいと思います。
(1)1週間の所定労働時間が20時間未満であること
(2)31日以上引き続き雇用されることが見込まれない者であること
雇用保険の保険料は、事業主と労働者双方が負担します。雇用保険率が事業の種類ごとに定められているため、事業主と労働者それぞれが実際に負担する保険料は事業の種類により異なります。令和2年度の場合、一般の事業では雇用保険料率は9/1,000であり、そのうち6/1,000が事業主負担、3/1,000が被保険者の負担となります。
雇用保険の適用事業所のほとんどが一元適用事業(労災保険と雇用保険の保険料の申告・納付等について、両保険を一元的に取り扱う事業)であり、一元適用事業の場合、雇用保険料は労災保険料と併せて、事業主が年度ごとに当該年度分の労働保険料(保険関係成立日からその年度の末日までに労働者に支払う賃金総額の見込額に保険料率を乗じて得た額)を概算保険料として申告・納付することとなります。
4.短時間労働、副業・兼業を行う際に気を付けておきたいポイントは?
「一定の条件を満たさない短時間労働者」、すなわち(1)1週間の所定労働時間が20時間未満であり、(2)31日以上引き続き雇用されることが見込まれない者は、雇用保険の適用除外となることはうえで確認した通りです。特に(1)は、週の所定労働時間が20時間に満たない短時間労働者の方には強く意識いただきたい内容です。
また、労働者が副業・兼業を行っており、同時に複数の事業主に雇用されている場合、上記加入要件の労働時間は「合算して算定されない」ことにも注意が必要です。
たとえば、一人の労働者が二社に雇用されており、1週間の所定労働時間がそれぞれ10時間ずつであるといった場合、二社の労働時間を合算すれば20時間に達するにもかかわらず雇用保険は適用除外となってしまいます。
厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」P.35
反対に、副業・兼業を行っている労働者が、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合は、その者の生計維持に必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。
上記のとおり、同時に複数の事業主に雇用されている場合の労働時間は雇用保険の加入要件において「合算されない」との取扱いが基本です。
(※しかし、65歳以上の労働者本人の申出があった場合、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が、令和4年1月より試行的に開始されます。)
5.労働者の雇い入れ、離職の際には必ず手続きを!(マイナンバーの届出も必要)
雇用保険制度は、労働者が失業した場合などに必要な給付を行う、労働者の生活及び雇用の安定を図る、再就職の援助を行う等、雇用に関して総合的な機能をもった重要な制度です。
そのため、事業主は労働者の雇い入れ、離職の際には不備なく手続きすることが必要です。
事業主は、適用事業所を設置した場合はその日の翌日から起算して10日以内に「適用事業所設置届」を、雇用保険の対象となる労働者を雇い入れた場合は、「被保険者資格取得届」をその月の翌月10日までに公共職業安定所(ハローワーク)に届け出る義務があります。
反対に、離職の際には「被保険者資格喪失届」の届出を、労働者の離職の日の翌日から起算して10日以内に実施します。
マイナンバー制度の導入に伴い、事業主がハローワークに提出していただく各種届出書等に従業員の「個人番号(マイナンバー)」を記入する欄が追加されました。このため、事業主はハローワークが行う雇用保険事務の「個人番号関係事務実施者」となり、従業員から「個人番号」を取得する必要があります。
雇用保険の加入手続きを行わない事業主に対しては、政府が職権により成立手続を行い、保険料額を決定します。過去に遡って納付すべき保険料を徴収されるほか、併せて追徴金も徴収されます。また、事業主のための雇用関係助成金を受給できない可能性もあります。
6.おわりに
いかがでしたでしょうか。雇用保険は労災保険同様、日頃意識することは少ないものの、有事の際には労働者、事業主双方にとってとても心強い保険となります。新型コロナウイルスによる休業・失業への備えとしてはもちろん、時短勤務や副業・兼業など、さまざまな働き方に興味がある方にとっても雇用保険適用の基本はぜひ押さえておいていただきたいと考えています。
【執筆者プロフィール】
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。
その他:
2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。
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